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半世紀近く憧れていた出合い

半世紀近く憧れていた出合い

 2002年には中南米に3度足を運ぶことになった。1月に、インターアカデミアパネルでワークショップ 「科学と社会」を催すというので、日本学術会議から派遣されてトリニダードトバゴへ出かけた。カリブ諸国は 初めてだった。この件は『学術の動向』03年1月号に報告した。10月には、GBIF(地球規模生物多様性情報機構) の第5回理事会に参加するためコスタリカへ出かけた。この機構の活動には、自然史学会連合の皆さんにももっと 関心を深めていただきたい。2003年10月には日本(筑波)で第7回理事会が開催され、関連行事も準備される はずである。ホームページ<http://www.gbif.org> <http://www.gbif.net> もチェックして いただきたい。GBIF Japan の活動についても<gbif_japan.bio.tokyo.jst.go.jp> を訪ねてみてほしい。
 12月には、初めてチリへ出かけた。これは科学研究費による現地調査である。千葉大学の朝川毅守、東大大学院生 の海老原淳の両名と、コケシノブに的を絞った資料収集が目的である。大学で義務付けられている会議が終わって からだから、出発が19日になり、大晦日には帰国したいと思ったので、28日にはチリから飛び立った。調査は主 として南部のチロエ島とその周辺の大陸部だった。コケシノブ科の研究は断続的に続いており、パリ第6大学の仲間 との共同研究も実を結びつつあって、これまで手を出さないでいた新世界にも出かける体制が整ったということ である。
 私の南米経験は、リオデジャネイロで開いた植物園会議に出、その際村上哲明君の材料を採りに1日フィールド へ入ったくらいで、あとはマルデルプラタのラテンアメリカ植物学会に、国際植物園協会会長として招かれた際に、 IOPI 理事会出席を兼ねて行ったことがあっただけで、この時にはフィールドへ出る機会はなかった。だから、 期間は短くとも、南米における本格的なフィールドワークは初めてである。
 結論からいえば、今回の旅では予定していた資料の収集は完璧に果たせたが、個人的には、かなり情緒的な話で、 Hymenoglossum, Serpilopsis, Leptocionium などが生えているところを実際に見るという楽しみがあった。 修士過程に入ってすぐに取り組んだコケシノブ科のうちで、Copeland が独立属にしたほど特異な型であるこれら の種に、当時は研究対象とできるようなものではなかったが、惹き付けられるものがあった。それからもうすぐ 半世紀である。これらの種は、標本でこそ見ることはあっても、生きている姿を見ることはなかった。それを、 豊富に、まとめてみることができたことは、大袈裟にいえば、生きていてよかったと言えるほどの感動を与えて くれるものだった。3人の大人が、雨の降りしきる林の中で、小さな付着物を取り囲んでいる姿は、どう見ても まともではないね、とやや自虐的な台詞を吐きながらではあるが。
 調査の成果は別に発表されるが、この旅では、とんだ副産物も背負い込んだ。これも自然史の一環かも知れない が、それはまた別の機会に披露させていただこう。

●写真は、Hymenoglossum というコケシノブで、
著者が半世紀前から見たいと思っていた憧れの種です

岩槻邦男(連合顧問)