自然史学会連合 設立理念
自然史科学は、自然そのものの多様性や仕組み、 さらにその生い立ちをナチュラリストの立場から理解する学問である。 自然の事象に対する知的好奇心は、現在でもあらゆる自然科学の原点である。 また、自然史は人類にとって最も身近で、誰でも体験的に楽しむことができる科学である。 近年では、自然の理解に周辺科学の成果や最新の技術が取り入れられて多くの 創造的研究が進められるとともに、自然と人類の共存を考える科学として、 その重要性が大きく見直されている。
ところが、戦後50年にわたり、わが国では自然史の研究教育には強い逆風が吹いた。 人口の都市集中や自然環境破壊に加えて、机上の勉強だけを強いる知育、 行き過ぎた還元主義、実利と目新しさを追い求める国民性などにより、 人々の自然離れが生じ、自然の研究教育の場や人員も極度に縮小されてきた。 このままでは自然史の研究教育は多くの大学から消え、日本の自然史研究は世界から 取り残されることが危ぶまれる。
しかし、新しい自然史の研究教育のあり方を根本的に考え、現状を打開する機は ようやく熟してきた。これは環境問題や自然の多様性の把握が国際的に大きな検討課題 としてとりあげられたこともあるが、自然の正しい理解とその普及が 人間教育とこれからの社会にとってきわめて重要であること、自然史研究の大きな成果が、 細分化された専門分野を横断した協力と総合によって得られることを、 多くの人々が認識したことによる。
この連合は、自然史の多くの専門分野に共通する問題を討議して意見を集約し、 協力して自然史科学全体の研究教育の振興をはかるとともに、 立ち遅れている研究教育態勢の抜本的な改善を目指すものである。 また、自然史の研究・教育の強化は、国民の文化的意識を向上させるとともに、 野外での体験などを通じて少年たちに感動と探求心を呼びおこし、 最近問題になっている若者の理科離れの防止にも、大きな効果をもつと考えられる。