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杉並区立科学館の存続に関する要望書

平成26年5月15日に、北里洋代表が東京都杉並区役所に出向き、区会議員の紹介で教育委員会事務局次長に、区長以下5名に宛てた「杉並区立科学館の存続に関する要望書」を手交しました。

要望書ダウンロード:
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杉並区立科学館の存続に関する要望書

自然史学会連合
代表 北里 洋

自然史学会連合は、39の自然科学系学協会が組織する日本学術会議協力学術研究団体です。自然史とは、天体から地球環境、さらにそこに暮らす人を含めた生きものについて、その現状と成り立ちを探究する学問分野です。身近な自然への興味関心を喚起するとともに、我々人類が地球に生きるための自然観を育成することを、本連合の目標のひとつとして挙げております。

都市化が進むなかでも、今なお武蔵野の自然が残る杉並区は、自然と人間の共生の実験場といえます。また、貴区が学びの場として科学館を有し、地域住民や児童生徒に対して質の高い理科教育活動を行つていることは、学術・教育関係者の間で広く知られています。私を含め本連合加盟学協会に属する多数の研究者も、貴区立科学館での講演・実習会の講師としてお招き頂いております。ところが、そのような実績と存在感のある科学館が、4/11配送の広報すぎなみ特集号で「廃止」を周知されたと知り、たいへん驚くとともに、これは貴区のみならず我が国の将来にとつて多大な損失となるのではと憂慮しております。計画のご再考をお願いいたしたく、39の学協会の総意として本要望書を提出させて頂きます。

自然に対する感性や問題意識は、幼少期の体験によって大きく変わると言われています。現に文部科学省の学習指導要領は、理科知識の羅列ではなく体験を通した理解を求めるとともに、指導にあたって「博物館や科学学習センターなどと積極的に連携、協力を図るよう配慮すること。」としています。貴区立科学館はプラネタリウムや流水実験場といつた大規模施設、顕微鏡、解剖器具、岩石、化石、生物試料などを整備し、小・中学校理科のすべての学習単元に対応したプログラムを40年以上にわたつて継続していると伺つております。貴区立施設再編整備計画には「学校の理科室の設備は整備されつつあることから、科学館で移動教室を行う必要性は薄れてきています。」と記されていますが、学校の理科室の設備を用いて科学館での実験・観察授業を超える学習効果を生むことは極めて困難と思われます。また、科学館での専門スタッフによる実験・観察授業は、引率教員にとつても貴重な学びの場となり、日々の授業に還元されると期待されます。

さらに貴区立科学館は、初等教育のみならず、一般社会への働きかけにおいても大きく貢献しています。天体観望会、地質や生物の科学教室・講座には、中・高校生からシニア世代にいたる熱心な科学ファンたちが参加されていると伺つております。このことは、地域に根ざした科学教育普及施設の存在意義の証と考えられます。学齢期の子供たちのみならず大人の生きる糧ともなる知的好奇心を満たし、自然に直接触れることができる学びの場は、決してICTやデジタル技術に置き換えることはできないと考えます。

先ごろ策定された貴区教育ビジョン2012推進計画は、誰もが学び続け、その成果を活かせる地域づくりを進めることを目標とし、「科学館の生涯学習事業の充実」を掲げています。貴区立科学館が築きあげた教育研究成果、設備、優れた人材を活かし、持続可能な社会の実現に向けて地球に生きる智慧を得るとともに豊かな文化を享受する場として科学館事業の維持発展を要望いたします。