HOME声明・意見[ 大阪府博物館見直し ]

大阪府の博物館施設「見直し」に対する要望



大阪府の博物館施設「見直し」に対する要望


2008年4月21日

大阪府知事   橋下 徹  殿

大阪府教育長  綛山 哲男 殿

大阪府議会議長 岩見 星光 殿

自然史学会連合


大阪府の博物館施設「見直し」に対する要望

 橋下徹大阪府知事が就任され、大阪府政の刷新に具体的な取り組みを開始されたことは、現在の停滞した 社会状況に照らして、誠に喜ばしいことです。しかしながら、府財政再建策の一つとして、大阪府立83施設の存続 再検討を急ぐ中で、弥生文化博物館、近つ飛鳥博物館、狭山池博物館、泉北考古資料館など、主として考古 ・歴史系博物館の維持と存続が危ぶまれています。自然史学会連合は、自然史科学に関連する38の学協会が 組織する日本学術会議協力学術研究団体登録の連合体*1ですが、自然史科学は,考古遺物の自然科学分析 などを通じて考古学や歴史学とは深い関係があります。大阪府立博物館の「見直し」は、自然系博物館の存続 にも影響するだけでなく、大阪府のみならず我が国全体の学術文化の健全な発展と維持においても、好ましからざる 影響を増幅させる可能性があります。このことを強く懸念し、本要望を提出いたします。
 現在、我が国の国公立博物館は、昨今の行財政改革により激変しています。特に、平成15年に指定管理者 制度が導入され、民間事業者の参入が可能になって以来、博物館の運営に不可欠な“長期的展望”が損なわれ、 経済効率を優先した運営に移行したり、組織自体の存続が危ぶまれる事態が増えています。日本学術会議は この点を強く危惧し、「学術・芸術・文化の蓄積・普及装置としての国公立の博物館が、その機能充実を目的とした 改革ではなく、財政および経済効率を優先する改革に影響されて、社会的役割と機能を十分に発揮できない状況 に陥る可能性があることを憂慮するものである。」という文言を含む声明を、平成19年に出しています*2。同声明 ではまた、国公立博物館の役割と課題について、博物館所蔵資料の重要性を説き、その文化的な創造性への貢献 を強調し、博物館の活動と目的が、それを利用する国民・市民にとって第一義的なものであること、それ故に、 博物館の運営には中・長期的展望が最重要であることが適確に表明されています。また同様に、日本学術会議の 自然史・古生物学分科会(基礎生物学委員会・応用生物学委員会・地球惑星科学行動委員会が合同で設置) が2008年に出した対外報告では、博物館法とその関連法規の改定が迫っていることを念頭に置いて現代の理想的 博物館像を提示し、博物館における資料や学芸員の存在の重要性を強調しています*3。
 自然史学会連合は、我が国文化の継承と創造に対する博物館の果たすべき役割については、日本学術会議と 同様の意見を持っています。さらに,この度の「見直し」では複数ある博物館を統合する計画がありますが,それぞれ の遺跡や史跡にこれらの博物館が存在することに意義があり,統合することで社会的・教育的効果が失われることも 危惧いたします。これらの見地から、この度の大阪府における“短期的”視野に基づく画一的かつ拙速な博物館の 「見直し」については、強く反対の意思を表明するものです。
 もとより、標記学術会議声明においても、「博物館の研究・調査・展示・教育普及の当事者は、新たな局面に慎重 かつ適確に対応し、旧式な博物館の形態を墨守するようなことがあってはならない。」と明言されているように、博物館 当事者による種々の改善努力は必須です。しかし、今回のような一方的かつ短絡的「見直し」は、長期的には決して 博物館の恩恵を享受すべき市民のためにはならず、世界に誇る日本の文化的資質にさえ重大な悪影響を及ぼします。 大阪府のような代表的公共団体が、率先してこのような実例を示すことは、現在の社会状況から判断して他の地方 公共団体あるいは国にさえ波及しうることは必至です。博物館の果たす社会的役割を首長として明確にご理解いただき、 このような悪影響の伝播を是が非でも回避するためにも、知事におかれましては、何卒今回の「見直し」をご再考いただ けるよう、ここに強く要望いたします。