HOME声明・意見[ ブラックバス政策 ]

今後のブラックバス政策に関する要望書

今後のブラックバス政策に関する要望書
平成13年2月19日

農林水産大臣 殿

 貴省所轄の水産庁では、これまでブラックバス類(オオクチバスやコクチバス)を自然水域から 駆除する政策を進めてこられました。中禅寺湖や奥只見湖では実際に駆除の効果が明白に 認められており、関係者のご努力に敬意を表する次第です。しかるに最近の報道等で、 水産庁はこれまでの管理政策を見直し、オオクチバスに対する漁業権を緩和し、公的に容認する 水域を一気に増加させる「すみわけ」政策に転換すべく準備中と聞き及び、たいへん驚いております。 自然史学会連合は現状での政策転換に反対します。もし、この政策転換が現実になれば、 生物多様性条約締結国としての責務を負う我が国において、水生生物の多様性の保全に重大な問題が 生じるからです。

 オオクチバスによる日本の在来水生生物に対する食害の被害の深刻さは各地から報告されております。 政策転換によって全国に公認釣り場が設置されれば、心ない一部の釣り人などが本種を持ち出し、 許可水域以外の自然水域に移殖する危険性が増大します。実際にここ30年にわたってオオクチバスが、 さらに最近10年弱の間にコクチバスが急速に生息水域を拡大した主な原因に、生息水域から 非生息水域への意図的な放流が指摘されています。また、少数の公認釣り場に大勢の釣り人が 押し掛ければ、資源維持のために大規模な種苗生産施設が必要になり、そこで生産された種苗の一部が 不法な移殖に利用される危険性も生じます。外来魚の違法放流を防止することを目的として公認釣り場を 設置することは、世界的に例を見ず、保全生物学上誤った政策だと思います。違法放流を防止するために、 これまでの駆除政策を強化しつつ、オオクチバスの移殖放流はもとより、飼育や譲渡についても適切な 規制を加えることが不可欠です。政策転換は違法放流の実行者を是認することになり、 それは生物多様性条約締結国としてもつべき理念からも明らかにはずれる世界に恥ずべき退歩であると 言わざるを得ません。

 自然史学会連合は、今回の政策転換を心から憂慮するものです。大臣におかれましては、 上記の諸事情をご勘案いただき、適切なご判断をたまわりますよう意見を具申する次第です。

 自然史学会連合に加盟する35学協会は以下の通りです。
 種生物学会,植物分類地理学会,植物地理分類学会,地衣類研究会,地学団体研究会, (社)東京地学協会,日本遺伝学会,日本衛生動物学会,日本貝類学会,日本花粉学会, 日本魚類学会,日本菌学会,日本蜘蛛学会,日本古生物学会,日本昆虫学会,日本昆虫分類学会, (社)日本植物学会,日本植物分類学会,日本人類学会,日本生態学会,日本生物地理学会, 日本蘚苔類学会,日本藻類学会,日本第四紀学会,日本地質学会,日本鳥学会,日本地理学会, (社)日本動物学会,日本動物行動学会,日本動物分類学会,日本プランクトン学会, 日本ベントス学会,日本哺乳類学会,日本鱗翅学会,日本霊長類学会

自然史学会連合
代表 森脇和郎