HOME声明・意見[ 自然再生基本方針案 ]

環境省「自然再生基本方針(案)」について(意見書)



環境省「自然再生基本方針(案)」について(意見書)

自然史学会連合代表 森脇 和郎 (理研筑波研究所バイオリソースセンター・所長)

連絡先:自然史学会連合事務局(国立科学博物館 動物第2研究室内)
 住所 〒169-0073 東京都新宿区百人町3-23-1
 Tel: 03-3364-7125  Fax:03-3364-7104
 E-mail: s-gento@kahaku.go.jp


平成15年2月24日

自然史学会連合 
代表 森脇 和郎

環境省「自然再生基本方針(案)」について(意見書)

 「自然再生基本方針(案)」は、貴重な自然を健全な状態で将来にわたって継続し、 人類およびすべての生物が適切な環境下で共存してゆくための有用な指針なるものであると 考えられ、各種策定や実施に関しては、「生物多様性国家戦略」の趣旨を尊重し、適切かつ 最善に自然が保護されることを切に希望するものであります。特に「自然再生協議会」の 機能が基本方針の是非の鍵になりますので、人員構成をはじめ協議会を設置する際は時間と 労力を惜まず努力されることを望みます。その上で協議会が健全かつ有効に機能することを 期待しております。
 現行の案では、以下の点についてさらなる配慮が必要であると思われます。

自然再生の方向性(1-4頁:方針案1-(2))

 我々の周りにある環境は長く複雑な歴史の上に成り立っております。我々自然を対象に 研究する者(科学者)にとっても未知のものや現象が多く残されています。実施者はこれらを 考慮し、生態系の蘇生に係る部分については、極めて慎重に対応することが要求されます。 例えば当該地域に少なくなった生物を他の地域から積極的に持ち込み補足するような短絡的 な実施案があるとすれば、それは当該地域の対象生物の遺伝的な特性の消失に結びつくこと から科学的に非難されることは明白です。また当該地域にどのような生物が生息している のかといった基本的なことは当然のことながら、生物間や環境と生物の関係も重々に調査し 把握しておく必要があります。自然再生基本方針は「保全」、「再生」および「創出」の 三本柱から構成されていますが、「保全」こそが幹であり、そのための基礎的な調査とその後 のモニタリングが最も重要であることは特筆されるべきでしょう。

科学的知見に基づく実施(2-3頁:1-(2)-ウ)

 科学的知見は議論を論理的に進める上で必要不可欠ですが、科学者間でも同じデータを 全く反対の意味で解釈することがあります。また「自然」に対するイメージも、専門分野 (例えば、農学、工学、理学)が異なると違うということも十分に考慮が必要な部分です。 自然環境を損なった原因の究明に加え、再生の目標や有効な方法を模索する上でも、データ の解釈については可能なかぎり多岐にわたる専門家(科学者)から意見を聞くことが必要 であり、知見同様に目標や方法を決めるプロセスについても透明性が保たれないと意味が ありません。科学的知見も人類の共有財産ですので、意義のある使われ方を強く希望いたし ます。また、自然史学会連合は自然史科学に関連する科学者集団として、時宜に応じた助言 や協力を惜しみません。

自然環境学習の推進(3頁:1-(2)-オ)

 自然環境学習は、地域特性や教育効果の点から、地域の博物館・動植物園等機関に多くを 委ねることが最も有効かつ現実的な方法と考えられます。そのためには、各機関の学芸員に 当該地域の自然について十分な研究をさせる機会を創出すること、さらに多岐にわたる専門 家を各機関に配置することが肝要であると思われます。また、一般の方々に自然体験や保全 活動へ関心をもたせるためには、学習する場を設けるだけではなく、体験や活動の必要性や 意義を周知させる必要があります。自然環境学習を推進する上で必要不可欠な人材の発掘や、 普及講演会や情報交換の場を増やす努力についても考慮が必要と思われます。

付記

 自然史学会連合は自然史科学全般に関わる研究・教育を振興し、現代社会に必要な正しい 自然観を普及することを目的とした自然史系学協会の連合組織です。平成15年2月24日現在、 以下の34学協会が加盟しています。

種生物学会、植物地理分類学会、地衣類研究会、地学団体研究会、東京地学協会、 日本遺伝学会、日本衛生動物学会、日本貝類学会、日本花粉学会、日本魚類学会、日本菌学会、 日本蜘蛛学会、日本古生物学会、日本昆虫学会、日本昆虫分類学会、(社)日本植物学会、 日本植物分類学会、日本人類学会、日本生態学会、日本生物地理学会、日本蘚苔類学会、 日本藻類学会、日本第四紀学会、日本地質学会、日本鳥学会、日本地理学会、(社)日本動物学会、 日本動物行動学会、日本動物分類学会、日本プランクトン学会、日本ベントス学会、 日本哺乳類学会、日本鱗翅学会、日本霊長類学会(順不同)