林原自然科学博物館の今後に関する声明
林原自然科学博物館の今後に関する声明
日本学術会議協力学術研究団体のひとつである自然史学会連合は、
国内39の自然史科学系学協会を代表する専門家集団の立場から、林原グループの経営破綻
によって今後の事業継続が不安視される林原自然科学博物館につきまして、
ここに声明を出させていただきます。
自然史科学の発展とその普及に関係各位のご理解をいただき、格段の配慮あるご判断とご努力を お願い申し上げる 次第です。 |
平成23年2月17日
林原自然科学博物館の今後に関する声明
日本学術会議協力学術研究団体 自然史学会連合 代表 西田治文 林原自然科学博物館(古生物学研究センター・類人猿研究センター)は、 林原グループのメセナ活動の一環として、古生物学・霊長類学の振興および教育普及に 多大な貢献を果たしてきました。このことは、国内外の自然史科学研究者の間でも、 広く知られております。 この度の会社更生法申立手続にともなうグループ事業見直しの中で、自然史学会連合としては、 同 博物館が育て構築してきた貴重な人的資源、標本資料、研究技術、国際交流などの継承に ついて、大変憂慮しております。これらの実績が適切に評価され、事業が継続されるよう、関 係する皆様方のご尽力をいただきたく、お願い申し上げます。 林原古生物学研究センターは、恐竜をはじめとする古生物学の独創的な研究成果を多数 発表され、国内外から高い評価を得てきました。その中には、モンゴル科学アカデミー古生 物センターと長年にわたって実施しているゴピ砂漠での恐竜化石探査・発掘調査など、特筆 すべきものがあります。この活動は単に自然科学の分野で評価を得ているだけでなく、日本と モンゴルの草の根および政府間の友好関係にも貢献しています。 林原類人猿研究センターは、設立以来10年にわたり、チンパンジーの形態、行動、脳、 発生、さらに別種の類人猿ボノボとの比較など、多様な研究業績をあげてきました。これらは チンパンジーのみならず、チンパンジーと近縁な人聞を理解するためにも重要な成果です。 また、野生動物や環境の保全活動、動物福祉の実践や、直接対面飼育手法の開発など、多岐にわたる事業が国際的に高い評価を得ています。 林原自然科学博物館は、自然科学に必要な、研究資料収集の側面でも大きな貢献をしてきました。その中には、世界で唯一無二の、ステゴサウルス類の新属新種のタイプ標本(分類の基本となるもの)などが含まれます。こうした貴重な標本は、科学資料として重要なだけで なく、人類の文化遺産として継承されていくべきものです。 同博物館は、研究と教育普及のための効率的・先進的な人員組織体制を構築している面 でも有名で、わが国の模範的研究所として高く評価されてきました。現在、博物館には研究員4名、化石剖出等専門員6名、博物館教育専門員3名、専門司書1名など、類人猿研究セ ンターが研究員6名、支援研究員2名、獣医1名、エデュケーター1名などが所属し、当該分野で我が国最大規模の研究・教育機関となっています。この中で、例えば常勤の化石剖出等専門員の配置は、化石資料を扱う技術の継続的向上に寄与してきましたし、博物館教育専門員の存在は、研究成果の展示・普及行事の立案・遂行を通した一般社会への啓蒙活動 に大きな成果を上げています。同博物館・研究センターは、中国地方の中心的な社会教育施設のーつとなっており、全国の大学における学生、大学院生への研究テーマの提供など 次世代の研究者育成にも貢献しています。 このようなユニークで、先導的な活動が衰退するようなことになれば、日本の自然科学研究と 国際協力関係の観点からも、多大な損失となります。そのような事態が招かれることのないよう、 関係する皆様の尽力をいただきたく切にお願い申し上げる次第です。自然史学会連合といたしましても,学界及び関係諸機関との連絡を緊密にしつつ,最善の結果を模索すべく協力 を惜しまぬ所存ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。 以上
※自然史学会連合は、自然史科学に関連する国内39の学協会(平成23年2月現在)が作る連合体で、
日本学術会議協力学術研究団体の1つです。 |
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