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「自然史系博物館部会」設置の承認



「自然史系博物館部会」設置の承認

 本年4月12日(土)の運営委員会において、自然史系博物館部会を設置することが承認されました。 その設立趣旨と部会委員、および第一回の部会の記録を紹介します。
森田利仁(運営委員、日本地質学会)

部会設置の趣旨

 「全国の自然史系博物館で働く研究者(連合に加盟する学協会員)の研究活動を支援するとともに、 これらの博物館を自然史の知的資産創造と継承の場として定着させてゆく。」ことです。

部会委員

 以下の10名の方々に本年度(来年3月末まで)の部会委員となっていただきました。
 (北から)
 澤村 寛 (足寄町立博物館)
 山崎晃司(茨城県自然博物館)
 遠藤秀紀(国立科学博物館)
 佐々木猛智(東京大学総合研究博物館)
 森田利仁(千葉県立中央博物館)  部会事務局
 須之部友基(千葉県立中央博物館)
 田口公則(神奈川県立生命の星・地球博物館)
 戸田孝(琵琶湖博物館)
 金沢至(大阪市立自然史博物館)
 三枝春生(兵庫県立人と自然の博物館)

第一回部会

 第一回部会を、10月8日、つくば国際会議場にて午前10時より開催しました。当日は、上記10名の部会委員 の方のうち、澤村さんを除く9名の方が出席されました。また、当日午後に予定されていた連合主催シンポジウム 出席者の中から、松浦啓一(国立科学博物館)、瀬能宏(神奈川県立生命の星・地球博物館)、大野照文(京都大学 総合博物館)の3氏と、連合庶務の篠原現人さんにも、オブザーバーとして参加していただきました。2時間ほど、 自然史系博物館の現状と、部会の今後の活動について議論しました。以下、そこで決まった今年度の部会活動方針と 会議での発言要旨です。

今年度の活動方針

以下の2件を、今年度の部会活動としてゆくことが第一回部会において確認された。
  1. (財)日本博物館協会から出版された「博物館の望ましい姿」報告書について、自然史学会連合 (自然史系博物館部会?)として内容の検討を行い、必要に応じて意見の提言を行う。
  2. 近年、日本国内の博物館においても専門職としての配置が見受けられるようになってきた 「エデュケーター」について、将来的にさらなる雇用推進と、また適切な職務分掌を検討するための ワークショップを開催する。

1.

 部会の達成目標について


  部会の達成目標として、研究活動と展示教育活動がともに創造的に発展する 博物館づくりを提案したらどうか


  日本の博物館の現実は、研究活動と展示教育活動との間にトレード・オフ の関係があることである。一方が活性化すれば、他方は廃れる。なぜこのような引っ張り合いの関係でしか、両者が共存できないのか、 まず分析が必要である。


  欧米の博物館における理事会のようなものがなく、館長を含め経営者の 姿が見えない。


  研究をしないことによる不利益について提言をすべきだ。中にはオリジナル な知識は欧米に頼り、それを展示・教育すればよい、と考えて博物館を運営している場合もあるのではないか。


  国立科学博物館においても、研究・教育・資料の人事バランスがとれて いるとはいえない。独法化後も、依然として教育系の職員はすぐに異動でいなくなるので博物館教育を長期的に考える職員となっていない。


 日博協博物館館長会議においても、『学校での理科離れを止めること』が 自然史系博物館あるいは科学館の重要な使命であるという議論があった。


 しかし博物館現場から見ると、理科離れについて博物館がかかわることは 色々問題がある。むしろ学校教育とは離れた立場で、現実に研究者が地域の博物館に働いていることが子どもに夢を与え、理科離れを 食い止めることに貢献するのではないか。


 今後、日博協を舞台に、自然史学会連合が議論に参加できるような土台作りが 必要。

2.

 兼務制について


 日本の公立博物館で研究者を多く採用している博物館の特徴は、研究者以外の 職員が極めて少ないことである。研究者が何でもやらなければならない体制になっている。それをどううまく運営しているのか、兼務制を 中心に考えてみたい。


 たとえば琵琶湖博物館で取り入れている兼務制は、日本の多くの博物館に おける実態と同様な実態に即し、自然な形で制度化したものだと思う。


 神奈川県では、3年間だけ研究者は教育普及部門に異動する義務を要している。 ただ『研究を止めろ』という話はでてこない.部署毎に仕事量の差はあるがなんとかなっている。

3.

 エデュケータについて


 近年、民間博物館に欧米並みのエデュケータが採用されはじめている。 これは博物館での研究活動を守る上での追い風ではないか?


 日本では育ちにくいのではないか。そもそも問題は税制で、寄贈を受けた ときにも税金がかかり、優遇措置がない。つまり市民が博物館活動に協力しずらい制度的な問題がある。したがって財務的基盤が常に弱い。


 エデュケータの地位と役割については、欧米での実績はともかく、日本において は実に多様な解釈がなされていると思う。この部会において、まずきちんと定義する必要があるのではないだろうか。


 日本では学芸員が自分でなんでもこなそうとし、しかもできてしまうため、 エデュケータ的職種の必要性が今まで浮かび上がってこなかったのではないか。


 エデュケータといわれる人たち合同の研修会をひらいてはどうだろうか。


 あと半年の活動ではエデュケータに関するワークショップを開催してみては。

4.

 その他


 自然史学会連合自体の普及活動も必要。ほとんどの市民は連合のことを知らない。


 日本の博物館の良い面もみるべきだ。そこをアピールするのも必要。


第一回部会の感想

 現在、日本の公立博物館をとりまく政治的・社会的な環境は、きわめて厳しい。いわく、納税者のためになっていることを、 自らの努力によって示すことが求められている。すなわち数値的な根拠を明示し、博物館存立の意義を積極的に語らなければならない 時代である。高邁な理想を語るだけでは、行政もまた市民も納得してくれなくなっている。そのため、多くの博物館が中期目標提示を 急いでいるし、さらには博物館評価を積極的に導入する動きが目立っている。その動きの中で、もっとも強調されるのは、当然のごとく、 市民サービス、とりわけ子供たちへの教育および普及活動である。日本博物館協会による「対話と連携」「望ましい博物館」などの提言、 そして国立博物館の独立行政法人化により、その流れはほぼ決定的なものとなった。
 この逆風の中で、自然史学会連合の自然史系博物館部会は、高度な研究機能を維持することを、日本の博物館運動の旗として掲げよう としている。博物館現場を知るものの立場から言えば、現今の情勢下、それは無謀な挑戦ともいえるだろう。もちろん、 幼稚な理想主義は、逆効果となることをよく理解している。研究機能の維持発展が、地域の市民に対する教育普及活動にも大きな貢献 をすることを明示する努力、そのための理論武装は、必要であろう。その理論武装は、その場限りの詭弁ではなく、世界の博物館の歴史 の中に、あるいは自然科学の将来ビジョンの中に、そして日本の学校・社会教育の現状と未来の中に、明確に位置づけられなければなら ない。言い換えれば、自然科学の本質と、博物館行政の本丸に肉薄する意気込みがなければ、博物館における研究活動を守ることは困難 なのである。
 自然史系博物館部会は、ややもすると理念倒れになりがちな、「自然史博物館における研究活動擁護の運動」を、より具体的に、 そしてより実行性のある形で推進する母体になりたいと考えている。しかしそのための、具体的戦略は、まだ闇の中である。
森田利仁(千葉県立中央博物館)