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ブラジルでの自然保護事情

ブラジルでの自然保護事情
●川岸浸食が進んだマングローブ林

 サンパウロから300kmほど南に位置するパラナ州沿岸域では、人口の増加や産業の発達に伴って水質 が悪化し、大規模な赤潮が発生するようになったため、計画的な環境保全対策が求められるようになった。 そこでJICA支援の下で、兵庫県がパラナ州の沿岸域環境保全に対して技術協力を行うことになり、私は生態 調査チームの一員としてこの事業の予備調査に参加させていただいた。調査の一環として、パラナ州沿岸域の 水質汚染や環境破壊が生態系にどのような影響を与えているかを長期にわたってモニタリングしようというこ とで、まずは沿岸域の海藻相を調査することになった。主要な調査地点となったパラナグア湾は約600km2 (平方キロ)と広大で、非常に自然が豊かな亜熱帯地域である。この湾にはいくつもの川が流れ込んでいるため に海水の塩濃度が低く、そのため湾口部以外はマングローブ林で覆われている。パラナグア湾は入り組んだ形を している上に、湾口部に大きな島が位置していることから、海水の循環効率が低い閉鎖的な性質を持っており、 排水や下水をしっかりと管理しなければすぐに水質が悪化しそうな環境である。
 さて、私の役目は海藻相の調査であるが、現地に行って思わぬ難題にぶつかった。ブラジルの管理局から「海藻 の採集はまかりならん」という話である。よくよく話を聞いてみると、今回の事業のカウンターパートと十分 な連絡が取れていなかったらしく、管理局側は調査について何も聞いていないというではないか。今回の調査は ブラジルへの技術協力事業の一環であると説明してもお役人には通用するはずもなく、結局ブラジル人以外は 海藻を採ってはだめ、採集した海藻をさわってもだめ、持ち帰るのも当然だめ、という条件付きで調査を許可 された。なにより、調査にはかならずお目付役が同行し、採集する場所まで制限されたのには閉口したが、 現地スタッフが尽力してくれたおかげでなんとか目的を果たすことが出来た。ブラジルでこのように管理が厳 しいのは、環境保護に力を入れているからだけではなく、国外への無統制な生物資源の流出を防ぐという意図が あるらしい。このような生物資源の管理は世界的な流れであり、ブラジルが特別なわけではない。海外で調査・ 採集される際には、管理局への許可申請や公用ビザでの入国など、事前の準備を怠らないよう十分注意されたい。
 ではブラジルでの調査結果はというと、海藻に関しては10年前に行われた海藻相調査と同じくらいの種数が 確認され、豊かな自然環境が維持されているように感じられた。しかし、陸域、特にマングローブ林に関しては 事態は深刻で、宅地開発などでマングローブ林が伐採されていたり、船舶の往来などでマングローブの根を支えて いる土砂が浸食し、倒れそうなマングローブも見られた。ゴミ処理場も十分整備されておらず、いかにも体に 悪そうな汚水が垂れ流しの状態である。今はまだ自然の浄化作用でなんとか持ちこたえているのかもしれないが、 これ以上人口が増加したり開発が進めば間違いなく沿岸生態系に影響を及ぼすだろう。貧困層の解消のために 地域産業の活性化をめざしつつ、漁場を整備したり自然環境を保護するというのは、なかなか至難の業である。

神谷充伸 (福井県立大学 生物資源学部・日本藻類学会)