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地学系分野についての実習(第2回自然史教育)

平成14年度「自然史教育展開プログラム」講師派遣

「地学系分野についての実習」
日時:平成14年11月19日(火)、午後2時~5時
実施場所:千葉県立中央博物館、研修室

講師:市川浩一郎(元大阪市立大学教授) (地質学会からの派遣)
派遣先:千葉市教育研究会理科部会特別研修会
       「地学系分野についての実習」     
参加予定者:中学理科の先生およそ約25名(参加自由ではありません。)

共催:日本地質学会 生涯学習委員会

連絡先:森田利仁(千葉県立中央博物館 地学研究科)。
    千葉市中央区青葉町955-2
    TEL:043-265-3879
    FAX:043-266-2481

自然史教育展開プログラム活動報告(第2回)

講師派遣:自然史学会連合および地質学会生涯学習委員会
2002年11月19日(火)14:15-16:30 於 千葉県立中央博物館

 自然史学会連合教育展開プログラムは、地域の学校で自然史の教育に努力されている先生を支援しようと、 昨年度より講師派遣の事業を展開しております(自然史教育展開プログラム)。昨年度は、千葉市教育研究 会理科部会の夏の研修会に、国立科学博物館の遠藤先生(連合運営委員のお一人)を派遣し、哺乳類の解剖 について講義と実習をしていただきました。本年度については、どこでどのように実施するのか、連合運営 会議内で種々の議論がありましたが、講師派遣事業を一気に全国展開するよりは、一部の地域をモデル地域 とし持続的な活動を行ったほうがよいのではないかという意見がありました。そこでの成果を広く宣伝し、 同様な教育プログラムを立ち上げる参考にしてもらうこと、および、すでに存在する多様な教育プログラム と連携を図っていこうということになりました。

 そこで本年度は、昨年度同様、千葉市内の中学理科の先生たちの研修会(教育研究会理科部会研修会)に、 講師を派遣させていただきました。事前に、研修会幹事の高橋先生(稲毛中学校)や石川先生(土気南中学 校)から、「地学の教え方について」というテーマが寄せられたおりましたので、運営委員の森田(地質学 会)が、千葉県市原市にお住まいの元大阪市立大学教授市川浩一郎先生に、講師のお願いをいたしました。 先生は、日本の構造地質学の開祖のような方で、地質学会では知らぬもののない大家でいらっしゃいますが、 快くお引き受けいただき、日本地質学会の生涯学習委員会と連合との共催による派遣ということで、上記の ような日時場所を設定いたしました。当日は、24名の理科の先生が、午前中の授業を終えられてから、千 葉市内青葉の森公園内の中央博物館にお集まりいただきました。以下、研修会の様子を簡単に紹介いたしま す。

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開会のあいさつをされる石川先生

“観察に代わるものなし、ただし……”

世話人の高橋先生(稲毛中学校)、石川先生(土気南中学校)らと市川先生は、何度か事前打ち合わせを行いました。 その過程で、高橋・石川両先生より、近くに観察場所のない学校の子供たちに地層のこと、地震や火山のことなどを どのように臨場感をもって教えたらよいだろうか、もしも可能なら教室内で実施できる簡単な実験法などを伝授して いただけないか、というような要望をいただきました。市川先生もこの現状はよく理解されており、都会の学校にお ける地学教育が直面する深刻な問題として受け止められたようです。しかしその上であえて、「観察するという行為 を、教室内での簡単な実験によって補うことはできない。」ということをおっしゃられました。自然に直接触れて学 ぶことに代わるものはない、ということです。現場の先生たちにはちょっときつい表現かもしれませんが、これは自 然史教育がもつ本質そのもののような気がしました。

ただし市川先生は、現場の先生たちの悩みを取り除くヒントも与えてくれました。実物でなくとも、地層は観察でき るというものです。すなわち、いわゆる「剥ぎとりパネル」や「地層のレプリカ」を用いる授業です。そこで今回は、 それらを展示している博物館において研修会を行うことにしたのです。博物館を利用した地学の授業モデル、という ことでしょうか。もっとも、市川先生の目論見はより壮大で、今回の研修会をきっかけとして、ゆくゆくは、都会の 中学校に「地層レプリカ」教材を揃えるよう、文部省や地元教育委員会に働きかけることを考えておられるようでし た。地質学会にとっても、将来の課題として考慮する問題ではないか、という気がします。

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OHPで講演される市川先生
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市川先生の講演を聞く参加者

さて、当日はまず市川先生に、房総半島の地層を一通りお話していただき、その後、場所を展示室の黒滝層 「地層レプリカ」と下総層群「剥ぎ取りパネル」の前に移動し、それらを用いた授業の意義を語っていただ きました。とくに「剥ぎ取りパネル」は、特殊な接着剤を地層表面に塗布し、固まった後に、カサブタをは がすように剥ぎ取った、地層表面の‘実物’標本です。レキや貝化石などもそれぞれ本来の産状を保存した ままの姿で剥ぎとられます。地質学初心者にとっては、地層露頭を実際に観察するよりも、むしろもっと地 層というものを体感することができる代物だ、と強調されておられました。

この展示室では、中央博物館の堆積研究者岡崎浩子氏も講師として加わり、剥ぎ取りパネルから地層を読む こつを、伝授していただきました。地層を読むというのは、具体的は、地層の砂や泥がどのような営力で運 ばれてきたのか、あるいは、当時の房総半島が現在よりも暖かかったのか寒かったのか、などを含まれる化 石の種類から推定するということです。

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黒滝不整合の地層レプリカを用いて説明される市川先生

もっとも、参加された先生たちのほとんどは、大学時代に地質を学ぶ機会のなかった方でしたので、地質の専門用語には すこし戸惑っておられた様子でした。むしろ、地層についてもっと素朴な疑問を抱かれたようです。たとえばある参加者 の方が、「地層が1センチ堆積するのに、どれぐらいの時間がかかるのですか?」、と質問されました。実はこれは、一 般の方からもっとも多い質問の一つです。おそらく地層を学び始めた方が、だれでもいだく疑問なのでしょう。そしてこ のような「素朴な質問」こそ、連合の講師派事業の趣旨に合ったものなのです。専門家に素朴な疑問をぶつけて答えを得る。 (あるいは答えられない専門家を見る。)この快感を、現場の先生たちに提供することこそが、オーガナイズするものの喜 びです。(蛇足ですが、学校の先生たちは講師に対してとても礼儀正しく、期待ほどに質問はされないよう感じます。ちょ っと残念なことですが、これはこちらの運営法にも問題があるのかもしれません。少し反省しております。)

さて、「地層が1センチ堆積するのに、どれぐらいの時間がかかるのですか。」という質問に対する答えですが、もちろん 地層は、いつでも連続的に堆積しているわけではありません。数時間で数メートルの厚さの地層が一気に堆積することも あれば、何百年間もまったく堆積しない時期もあります。とくに浅海域で形成される地層は、一般的に、不連続に堆積する ものです。このことを理解すると、地層の中に、洪水や地震の痕跡が残されていることの謎が解けるのではないでしょう か。

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下総層群の「剥ぎとりパネル」の前で説明する岡崎氏と市川先生

その後、再び研修室に戻り、今度は火山の話題に移りました。火山は、地学の中で、子供たちがもっとも関心 を寄せる話題の一つなのでしょう。先生たちの関心も高かったように思います。

市川先生は、まず関東周辺の地質図を示しながら、太平洋側にもっとも近い火山がつらなる線、すなわち火山 フロントという概念を説明されました。関東圏の火山フロントは、房総より内陸側を通っています。なぜなの か? 海溝に沈みこむプレートの動きに関係があるのだ、という話をしていただきました。プレートテクトニ クスと火山、この両者の関係が理解されると、火山に対する理解が数段高まるはずです。さらに、房総半島の 地下深部に存在する基盤岩の話から、地震の話、活断層の話などに移り、市川先生の講義は終了しました。

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「椀かけ法」の実演をする高橋氏

最後に、地層に含まれる鉱物や火山ガラスを抽出する方法の一つ「椀かけ」法のデモンストレーションを、 中央博物館の高橋直樹氏に行っていただきました。「椀かけ」法とは、お椀のような器に入れた砂や火山灰に、 何度も水を注ぎ、懸濁物を捨ててゆく方法です。最後に、粗く重い鉱物や火山ガラスなどのみがお椀の底に 残されます。それを乾燥させて、実体顕微鏡などで観察するのです。砂金を取り出す方法のようなものと 思っていただいてよいでしょう。

非常に簡単な方法で、理科の教科書にも載っていますが、何度も水替えをやらなければならないので根気 のいる作業です。教育経験の長い先生のお話によると、椀かけ法は、かつてはどの学校でも地学の実習授業 として取り入れられていたようですが、実習時間がかかるなどの理由により、現在ではほとんどの学校で 行われていないようです。これも、「教える時間がない」ということで、切り捨てられてしまった多くの 重要な授業の一つであろうと思います。きれいな鉱物や火山ガラスの輝きは、子供たちの目にとても大切な 印象を残すに違いないのに、残念なことです。

研修会は、予定を30分ほどオーバーし、午後五時過ぎ無事終了しました。研修会に参加された方からの 感想は、後ほど幹事の石川先生が集計しお送りいただくことになっています。それは後日またご紹介します が、お世話をした立場から申せば、とても充実した研修会だったのではないかと思っています。講師を快く お引き受けいただいた市川先生、またお手伝いいただいた岡崎さん、高橋さん、どうもごくろうさまでした。 また、遅くまで熱心にご参加くだされた皆様、そして高橋先生、石川先生、ありがとうございました。

森田利仁(連合運営委員) 記

連合教育プラン参加者からの感想
11月特別研修会 地学実習コースアンケート集計

研修内容の活用に関してのプランや提案について

この研修コースの目的のひとつとして、教育現場と博物館などの施設や、今回全面的 に協力していただいている、自然史学会連合などの機関との連携を模索することがあ ります。研修を進めながら、以下の視点から、皆さんの意見を伺いたいと思います。 これらは集約して市教研理科部会の役員会に諮るとともに、今回協力していただいた 方々や、参加者の皆さんにお配りし、利用していただこうと思います。
(1)今回の研修内容(説明・指導していただいた内容や中央博物館の施設)を、学校現 場で生かそうとしたら、どんな場面で、どのような利用方法が考えられるでしょうか。
(2)中央博物館(を含めた、校外の文化教育施設と考えていただいても結構です)を教師 の立場で、また生徒の立場で、利用する場合、展示や企画に対しての要望があれば お願いします。

(1) 今回の研修内容(説明・指導していただいた内容や中央博物館の施設)を、学校現 場で生かそうとしたら、どんな場面で、どのような利用方法が考えられるでしょうか。──に対する回答

  • 文化祭、発展学習の中で総合と教科の関連。1年生「大地とその変化」のまとめとして。
  • 地域学習や、千葉県の地質的資料、展示を授業で生かせたらと思いますが、なにぶんにも学校 から遠いため、土日に関心の高い生徒を連れてきてやるのが精一杯です。
  • 房総半島を中心とした説明内容は、地学分野の授業をするうえで、教師としての基本的知識 として大変参考になりました。その他、選択理科、総合的な学習の時間、科学部などの部活動の 場面でも、生かすことができると考えます。
  • 講義の内容は、中学生にとっては難しい感じがした。しかし、博物館見学は良かった。総合の 時間などを利用して見学させれば、興味のある生徒には有意義だろう。
  • 地学は大学でもほとんど実習したことがないので、自分自身の知識理解を深めることで、生徒 にも還元できると思います。なによりも、私自身が地層とかの興味があまりなく、生徒にもそれが 伝わっていってしまったかもしれないのが、いろいろ面白いぞと今回思えたのが何よりです。 生徒は動くもの、変化の大きいものに興味がいきやすいので、長い時間を閉じ込めたものにも興味 が向くようにしていきたいと思う。
  • 博物館内にある展示物と同じようなものを学校で作成してみたいと思った。
  • 誤った認識で生徒に伝えていた内容を訂正することができます。直接「授業のここで利用」という ことではなく、「もっと見識を広めなければ」と感じるだけでも研修の意義は大きいと思います。
  • 今回の研修で、地層の剥ぎ取りの展示を作った岡崎さんのお話が印象に残りました。なぜなら、 展示品をなぜ作ったか、どこを見て欲しいのかなど、作った人の目的や思いみたいなものが聞けた からです。展示品ができるまでの過程や工夫、苦労にこそその分野の面白みがあるのだと思いました。
     だから、中学生たちにも、展示品を作った人にできれば解説していただける機会があったら、 さぞかし良いだろうと思います。
  • 選択授業の内容にもってこいだと思う。身近なものを利用し、お金もかからず簡単に出来る点で非常に 教材として活用しやすい。



(2) 中央博物館(を含めた、校外の文化教育施設と考えていただいても結構です)を教師 の立場で、また生徒の立場で、利用する場合、展示や企画に対しての要望があればお願いします。──に対する回答。

  • 資料やパネルの貸し出し、出張講座、標本や資料の提供
  • 展示内容:環境調査の仕方、環境状況(汚染状況)
  • 化石などを学校へ貸し出していただければ、活用できると思います。
  • 県民だより等でも講座の案内などをよく目にし、中には参加してみたいものもあるのですが、 中学校では部活などで制約が多く実際には参加が難しいことがほとんどです。ですから、今回のように 市教研のような時間帯に研修ができるのは、非常にありがたいです。
     テーマとしては環境について、千葉市の生物などの状況やそれに対するどのような対策などを取って いるのかを知る機会があると良いです。中学の理科のまとめは、それで完結するからです。
    ※今回はめったに来られない中央博物館でいろいろと教えていただきありがとうございました。
  • 房総半島の生い立ちをアニメなどで、よくわかるようなものがあるといいかも。
  • 各展示について、図入りで解説が置いてあると良いです。(わかりやすい、文字のあまり多くないプリント)
  • 音声ガイダンス(恐竜展にあったような、個人がヘッドホンを着けるようなもの)があると良い。
  • 家族で見学できるように(発達段階の差を埋められるような)幅広い年齢層に対応した展示の工夫があるといい。 生徒が学習後、家族で来て説明できる。
  • テレビの科学番組で、扱われるような健康に関するようなものなど、われわれの生活に身近な内容について 科学するような企画を考えられます。
  • 中央博のものは、とても良いものがたくさんあると思います。でも、私ひとりが生徒たちを連れて行って あの展示品を教材に話をすることはできません。だから、学芸員さんの解説と教科のないよう(特に教えづらい ところなど)をタイアップさせていけば利用率が上がると思います。
  • 中央博物館の利用に関しては、海の博物館と同じように子供向け、大人向けの簡単な解説書を展示ごとに 置いておくと、見る側の意識が変わってくるのではないかと思う。内容が難しいものもあり、特にそういう 展示には必要だと思う。
  • すぐ上の方の意見と同じですが、海の博物館の方法は比較的安価で興味を引き起こす良い工夫だと 思いました。展示ブースごとに、解説書とクイズ形式のプリントが対になっており、教材としても優れています。 (私は一部ずつすべてもらってきました) 教科の時間を割いて、生徒を博物館に連れてくるのは不可能ですが、 総合学習の時間ならば、まとめ取りが可能です。しかし、連れてきて無目的に子供たちを放しても、あまり効果は 望めません。事前学習が不可欠です。その準備の補助となる教材が博物館にあって、誰でも利用できる状態にあると、 俄然利用頻度が高まります。そこで、
    (1)上記のようなプリント(白黒で十分)を館内、およびHP上でダウンロードできるようにしておく。 (著作権の問題が生じますが、無料ですとありがたい)
    (2)使用した教職員が、報告できるような(書き込み、ないしはプリントの改良版のアップロード)コーナーを HP上に作る。
    このような体制を整えておくと(予算や人的配置の関係で厳しいとは思いますが)、教職員の研修→学校現場での実践 (報告)→資料のストック→改良→・・・・・  といった連携がつくれるのではないかと思います。
    校外学習の企画を立てようとしたとき、我々がきついのは、すべての学習教材を自作でそろえなければならないような 場合です。そういう時は、ほとんど企画自体がボツになります。校外施設に、学習教材のひな形があり、それを 一工夫して事前指導に活用できるようであれば、負担も減り、利用する人も増えると思います。 当然、子供の指導のすべてを任せるような丸投げ企画はあってはならないわけですが、私は、「企画する教職員の 負担減」が大きなポイントだと思います。利用したくても、時間や仕事量の制約が大きくて実行できない方はたくさん いますので、ひとつの意見として参考にしていただければと思います。
本日は私たちの研修のために、たくさんの準備や、時間を割いていただき本当にありがとうございました。 これからもよろしくお願いいたします。