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解剖学を理科でどう教えるか?(第1回自然史教育)

自然史教育展開プラン活動報告(第1回)

「解剖学を理科でどう教えるか?」
2001年8月29日(水)9:30-12:00 於 千葉市立蘇我中学校

 地域教育展開プログラムは、今年度試行段階としての活動を始めました。今回は、 教育現場の先生方の窓口として、自治体レベルの教育研究集会(教研)理科部会を選びました。 実際は、連合運営委員のつてを頼りに、千葉市教研理科部会の夏期実技研修時に連合派遣講師 による実技研修を組み込んでいただきました。
 講師は、連合事務局担当でもある遠藤秀紀さん(日本哺乳類学会、国立科学博物館)に お願いいたしました。このプランは、現場の先生方から派遣内容について希望を出していただき、 連合内で適任者に講師をお願いする方式をとっていますので、今回も市教研からの 「動物解剖について」という希望に応じての遠藤講師派遣でした。講師派遣費用や材料費は連合の負担です。

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 当日は21名の先生方と生徒1名が実習にあたり、そのほか理科部会役員の先生方も交えて、 てきぱきと 作業が行われました。連合からは遠藤講師の他、プログラム担当の運営委員森田と 筆者がうかがいました。中学における解剖実習の意義や基本理念などを説明しながら、 各自1頭ずつのマウス頭部を約2時間かけて解剖しました。肉食動物の例としてタヌキとハクビシン 1頭ずつの頭部も提供され、希望者が利用しました。

 さすがに先生方は手慣れたもので、哺乳類の解剖は未経験の方が大半であるにもかかわらず、 作業はスムースに進行しました。解剖は、構造を機能と結びつけながら行い、最後はヒトとは どのようなものかという人間への還元を行わなければ意味がないということで、咀嚼をテーマとし、 顎の骨格と咀嚼筋の構造を結びつけながら、食性による違い、咀嚼運動との関連などについて確認しつつ 理路整然と進みました。

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 先生方からの質問やご意見は、別にまとめますが、作業終了後には、「カエルの解剖が教科書には 出ているがどのようにしたらよいか」という質問が一つありました。遠藤講師の答えは、 「カエルは脊椎動物の中でもかなり変わった構造をもった動物で、観察結果が即ヒトに結びつかない面もある。 でもカエルでは心臓のように身体の割に大きくて見やすい臓器もあるので、そういう利点を活かして 解剖を行うのが良い。ただ、予算や時間が許すなら、生徒さんに配れる総個体数は少なくてもよいから、 身体の大きいラットが適切です。」というものでした。

 解剖はにおいが気になると筆者は経験から思っていましたが、腐敗しかけや、ホルマリン漬けの遺体 を使うからそうなるので、今回のように動物を直前まで冷凍し、解凍直後に作業すれば問題ないことが わかりました。なお、動物を安楽死させる方法についても遠藤講師から解説がありました。

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 動物を解剖することが罪悪であるような論調や、解剖無用論も一部にありますが、自らをヒトという生物として 認識し、生命を構造と機能、多様性という観点から実体験を通じて理解する上でも、解剖実習の教育効果は 大きいものがあります。動物でも植物でも、解剖実習に必要な知識を持った先生が減少している傾向は、 大学教育にも問題がありますが、大学でそのような実習を行える教員が減少していることも事実です。 そのような点を補うために、連合の教育プランは小さいながらも一定の役割を果たせるのではないでしょうか。
 今回の経験をふまえ、自然史教育展開プログラムの実効性、連合としての活動にふさわしいものかどうか、 継続するならばどのようなかたちが最善か、などを議論してゆきたいと思います。現場の先生方からのご意見を集約し、 役に立つ活動とは何かを見きわめてゆくことが必要ですし、事務局構成員が定期的に入れ替わる連合の組織内で、 学会の協力を効果的に引き出すことが可能かどうか、などを具体的に煮詰めなければなりません。 加盟学協会内でも具体的に議論していただきたいと思います。
 終わりに、ご協力いただいた先生方に心より御礼申し上げますとともに、今後も自然史教育という共通の目的に 沿って、連合を活用いただけるようなご意見をいただけますよう、お願いいたします。 また、ご多忙にもかかわらず講師をご快諾いただいた遠藤さんに深謝申し上げます。

西田 治文(中央大学 連合運営委員)

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参加した先生たちと講師の遠藤さん(中央)