-双方向性インターネット調査システムを利用した環境調査- 岩渕 成紀・仙台市科学館 |
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<目 次> 1 はじめに 2 双方向性インターネット調査システム(IISS) 作成の経緯と構成(1998年) 3 IISSの構成(1999年、2000年) 4 IISSの入力と調査結果の表示までの流れ 5 IISSの成果と今後の課題 |
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1 はじめに 博物館は、情報社会にあって多くの価値ある情報をアーカイブして収蔵、保存する役割が高まっている。 そのためには効率的に情報を集め、それ等を多角的にデータベース化する必要がある。そのためには博物 館どうしの連携や、研究機関との連携ばかりでなく、行政や社会教育機関、NPO,市民との連携が必要にな ってくる。博物館はそのようなアーカイブ収蔵機関としての価値が高まっており、現在、博物館の本来の 在り方が問われている(Fig.1)。 仙台市科学館と宮城教育大学環境教育実践研究センター(EEC)は、環境調査のための双方向性インター ネット調査システム(IISS)を開発した。この調査の最終目標は、市民調査と専門の調査の融合であり、 これまでのデータベースとデジタルマップデータベースの融合である。 |
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専門家調査の内容は、保護に必要な重大な情報以外はできるだけ速やかに市民の伝える義務があると同時 に、信頼性の高いデータを市民が利用できるという利点もある。一方、市民調査であっても重大な発見につ ながる内容のものもあり、専門家が見落としたものを市民が発見しているという例も少なくない。IISSを有 効に活用すれば、これらのインターラクションを利用してより効果的に調査を進めることができる。現在の システムは主に市民調査用として開発しているが、この応用としてRDB (Red Data Book) 等の野生生物の生 息、生育分布図作成のために専門家が使うシステムとして利用することも期待される。 |
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2 双方向性インターネット調査システム(IISS)作成の経緯と構成(1998年) IISSは仙台市の市民環境調査としての「生きもの調査」のインターネット版として考えられたもので、 1996年,セミの調査の段階で構想を始め、1997年の鳴く虫(エンマコオロギ、ウマオイ)調査でその構想が実 現に向けて動き出し、1998年のタンポポ調査の際に実際に運用されたのが始まりである。1998年の調査から 本システムを管理するUNIX対応サーバーを宮城教育大学環境教育実践研究センター(EEC)に設置した。ソフト ウエアーのOSはLinux、Web Serverはapacheを利用した。また、入力されたデータを蓄積するプログラムと してのCGI、入力されデータからビジュアル表示用の画像ファイルを生成するプログラムとしてのCronをそれ ぞれ開発した。データベースはその加工と利用のし易さからテキストファイルを基本に作製した。それらは、 次の4種に大別される。(1) 入力されたデータを蓄積するファイルとしてInput.txt、(2) 数量に応じた表示 位置及び画像ファイルを格納するファイルとしてdata.txt、(3) タンポポの数量と画像情報を格納するファイル としてicon.txt、(4)マップ座標情報を格納するファイルとしてplace.txtである(Fig.3参照)。 |
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また、トップページは、入力ミスを防止し、調査者のできるだけ正確なデータ入力を期すために入力ページ と確認ページとに分岐させた。また、入力ページは、区ごと(青葉区、宮城野区、若林区、太白区、泉区) に表示できるようにした。その際、タンポポを見つけた地域の住所は7桁の郵便番号の住所を採用した(太 白区78地域、泉区51地域、青葉区110地域、若林区80地域)。タンポポを見つけた数については、選択する値 を4段階に分けて行った(見つからない=0、数株以下=S、両手を広げたぐらい=M、広範囲=L)。タンポポ を見つけた数については、プログラムの換算値を書くステップの上限値とし、11~20の場合は20,31 ~40の場合は40、41以上の場合は50とした。 各項目の入力後に確認ページを表示し、記入の確認ができる工夫を行った。送信されたデータはデータテ ーブル(input.txt)に蓄積し、それと同時に管理者に自動的にメール送信される仕組みを作った。また、調査 者にはお礼のメールが自動的に送られる仕組みも作成した。仙台市全体のマップはサイバーマップジャパン (凸版印刷作成)を使用し、25エリアに分割した。また、各エリアは環境庁基準の3次メッシュの境界線 によって分割した。タンポポを見つけた地域の表示位置は、place.datに基づいて表示されるように工夫した。 また、タンポポの調査結果が入力されてから、インターネット画面を通して地図で確認できるまでの時間を5 分以内とした。旧仙台市街地は、郵便番号が細かく設定されており、画像表示マップは効果的にシステム化 できた。しかし、これに比較して、郊外や泉が岳、秋保、二口、作並などの山林地域は、郵便番号に匹敵す る地域が広範すぎて、3次メッシュに対応できなくなる状況が生まれた。そのため、今回の調査ではそのよ うな地域は、始めにダミーで代表地域にデータを入れ、後日手作業で該当地域にデータを配分する形を取ら ざるを得なかった。郵便番号に頼らずに住所から自動的に対応するマップの製作と、クリッカブルマップの 併用が重要となり、システムの大幅な変更が必要になった。 |
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3 IISSの構成(1999年、2000年) 1999年は、郵便番号ではなく地域をx+α,y+β座標に変換し表示するシステムを開発し仙台市科学館の Windows NT 上で動くインターネットサーバー上に置いた。 2000年度は、再び宮城教育大学環境教育実践研究センター(EEC)に専用サーバーを置いて管理した。 機構的にはサーバーと描画エンジンPCに常駐するのは、物理的に存在するするCGI等のプログラムと、 データ及びHTML文で構成され、利用者に対しては結果表示部分と情報取得部分とそれらの導入部的な 先頭ページで構成されている。IISSはインターネットを通じてインタラクティブに動作し,表示するコン テンツは科学館の所在する市内の動植物の分布・調査結果をユーザーの画面上(ブラウザ)に表示する ものである。使用しているマップは国土地理院のDigital Mapを版権処理して利用した。 IISSは基本的に「情報の入力」と「情報の表示」の二つから成り、情報の入力では仙台市全体を25の地 域に分割した25万分の1を利用し、そこから「環境庁:3次メッシュ;1km ×1km 」に準拠したマップにま で2段階に、拡大して目的の調査地点を特定し、プルダウンメニューを中心として必要な情報を入力ができる ように構成している。サーバー側ではこれらの情報を取得すると同時に集計、各処理を行った上でバックア ップを取っている。 一方、結果の表示では、地図上にリアルタイムで調査の結果を1次メッシュと3次メッシュで自動的に表示 し、図表やテキストデータでも調査結果を表示する。そのスピードは数秒以内でクライアント側のブラウザ に表示されることを目標としている(Fig.4). |
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5 IISSの成果と今後の課題 現在のシステムは、調査者の記録内容のすべてをcsv形式に記録してサーバーに蓄積している。そのため、 これをサーバー管理者や専門性の高い研究者がそれらデータをもとに環境調査の分析が可能になる。これま で、データの入力に時間を費やしていた時間を分析のための時間として十分に活用できる(Fig.9)。 また、現在のシステムは主に市民調査用に作成しているが、RDB(Red Data Book)等の製作のための調査の専門 家が使うシステムとして利用することも可能である。専門家による調査の中には公表できない内容が含まれ ることがあるが、それは専門調査員がパスワードを持ち管理することで解決できる。 |
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研究者や専門家の調査であっても公表できるものは公表することで、信頼性の高い新しいデータを市民が 利用できるという利点もある。IISSを利用することで、市民調査、環境教育等の教育的な内容と学術研究的 内容とがシステム上で共存し、新しい形の調査システムが生まれる可能性が高い。インターネットによる教 育の発展的を考えた場合、優れた双方向性システムは欠かせないファクターである。一方的な発信者、一方 的な受信者では、コミュニケーションとしてのインターネットの可能性が半減する。IISSの概念は、インタ ーネットの利便性と環境調査の有効性の両者を共生させることのできる画期的な材料となることが期待され ている。 本研究は現在2つの方向に具体的に発展しつつある。ひとつは、全国6カ所の科学館を連携した3次メッシュ レベルの全国合同調査の動きである。現在、札幌市青少年科学館、仙台市科学館、科学技術館、名古屋市科 学館、広島市子ども文化科学館、福岡青少年科学館が参加し、同じ動植物等を対象とした調査を2001年に行 うことが決定している。すでに科学技術振興事業団の資金援助が確定しており、IISSワーキンググループが 立ち上がり準備が始まっている (Fig.10)。もうひとつは、宮城教育大学環境教育実践研究センター(EEC)を中 心として現在開発中の2次メッシュレベルの完全全国版調査である。こちらの方は、実践的試行が行われる段 階である。 |
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謝 辞 本研究のシステムの製作並びに、実験事業に対する環境教育研究実践センター(EEC)の見上一幸教授、 鵜川義弘助教授、並びにNTT東北支社マルチメデイアサービス推進部(元宮城支店)の関係各位の全面的ご 支援、ご協力に感謝します。 |
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