哺乳類頭蓋画像データベース

茂原信生(京都大学)・高橋秀雄(獨協医科大学)・山下真幸(獨協医科大学)



1. 作成に至る経緯
 哺乳類の画像データベースを作ろうと考えたのは、もうかなり前のことになる。外国の博物館や大学を回って、日本の博 物館の資料の貧弱さとその利用の難しさを痛感していたので、何とか日本にも研究者が利用できる資料を収集することを考 えていた。そのために、獨協医科大学在籍中は教室員の方々の協力の下に標本づくりに精を出してきた。多くの学外の関係 者の方々のご協力もあって、2000 を越える数の骨格標本を収集することが出来た。ワシントン条約が発効した関係で、研究 の基礎資料としての動物骨の入手は難しくなり、今後、形態学分野での研究に支障が生じる可能性も考えられるので、標本 を公開して他の研究機関の方々も利用できるような形にするのが望ましいと考えた。その絶好の機会がおとずれた。獨協医 科大学の第1解剖学教室の前任教授の江藤盛治先生の退職記念に、獨協医科大学第1解剖学教室所蔵の骨格標本リストを作 成する事が出来た。この標本リストは、江藤先生のご理解の上に作成されたものであり、退職記念に作られる印刷物として はちょっと色合いの変わったものであったと思っている。学名のチェックが充分ではないなどの問題はあるが、とりあえず は所期の目的を達したものと考えた。その後、パーソナルコンピュータの著しい進歩により画像データベースを作成するこ とが可能になった。その長年の思いがかなって、平成 8 年度から 3 年間の科学研究費をいただくことになり、実行に移せる ようになった。


2. 目 的
 日本の博物館や各大学に所蔵されている資料は、量や質ではとうてい外国の博物館には及ばないが、現存する資料を最大 限に利用することでいろいろなアイディアを得ることは可能である。特にそれが遠隔地に出かけずに可能になればすばらし いことである。我々の作成した哺乳類頭蓋の画像データベースの利点は、居ながらにしていろいろな哺乳類の頭蓋の形を 6 方向から眺められること、さらに自分のコンピュータにそれらの画像を取り込んで、違った大きさの頭蓋を同じ大きさにア レンジすることによってそれぞれの形の違いを鮮明にすることが出来ること、などである。実物があるに越したことはない が、このような画像データベースの利用によって、形態を見る目が飛躍的に充実する可能性がある。この画像データベース でヒントをえて、さらにそれから一歩進んだ研究に入り込んでいく可能性も生まれる。哺乳類頭蓋画像データベースは、デ ータベースとしてはとりあえず出発点にたったにすぎないというところである。まだまだ不備な点がある。どの分類を基準 とするか、英語名はどれが正しいのかなどの検討課題がある。また、基礎資料として各種計測データを付加することにより さらに充実したデータベースが可能になろう。さらには、国内にある多くの哺乳類標本をこのデータベースに加えて、現生 のすべての哺乳類の頭蓋を網羅できるまで作業を継続する必要もある。それでこそ本当の利用価値が生まれてくるものであ ろう。こういった点はともかく、世界でインターネット上に公開されている画像データベースは多いが、哺乳類の頭蓋のデ ータベースでこれに勝るものは今のところ見あたらない。今後さらにこれを充実させることによって、研究の一助になれば この画像データベースを作成した我々にとってこれに勝る幸いはない。


3. データベースの概要
 今回撮影した画像の素材は、獨協医科大学第一解剖学教室所蔵の約3000の脊椎動物骨格標本のうち、 哺乳類頭蓋約1300個体分である。所蔵標本に含まれる哺乳類の標本数は実は1500個体を悠に超えている のだが、今回撮影に用いた頭蓋はこのうちなるべく完全な形をしているものを選んだ。ところで解剖学的に少し細かな 話をすると、頭蓋 [トウガイ] はヒトの場合、15種23個の頭蓋骨 [トウガイコツ] からなるが、今回は撮影の技術的な 都合でこのうち下顎骨と舌骨は含まれていない。下顎骨と舌骨を除いた頭蓋は一つの塊を成している。この骨の塊 [解剖学では特別な名称がない、英語ではcranium を当てている] を前後、左右、上下の6方向から撮影した。 前面・後面・左側面・右側面・上面の撮影は、原則として、耳眼平面 [眼窩の下縁と外耳孔の上縁によって 形成される平面] が水平になるように頭蓋を固定して行い、下面のみ上顎の歯列が形成する平面 [骨口蓋の 部分] を水平になるようにして撮影した。写真はプロ用のデジタルカメラで撮影しており、現時点(2000年2月)では 最高品質の写真であると自負している。解像度だけに限れば、それは日進月歩なので近い将来、数値的に 平凡な値になってしまうことは確実である。ただし、良い骨格写真を撮影するためには、CCDの集積度や画素数の ほかに、デジタルカメラの色再現特性に基づくライティングの手法やレンズなどの光学系の精度、微妙な露光条件 などの種々の要素が絡んでくるので、大量の撮影データを見ながら試行錯誤で経験的に各種条件を決めて いかざるを得ない。全ての写真にはスケールを一緒に写し込み、また撮影は望遠レンズを用いてできるだけ遠距離 から行った。被写体の画角を小さく抑えて、パースペクティブ投影に起因する歪みを出来るだけ小さくするためである。 上・下の方向の撮影には表面鏡と呼ばれる特殊な鏡を使用した。通常の鏡を用いない理由は、鏡の銀面の反射 とガラスの表面反射による2重の写り込みが生じてしまうからである。1画像あたりのデータの容量は圧縮して6MB、 展開して17MBである。現時点での総撮影枚数は11198枚に達し、全データはCD-Rメディアで126枚に保存して ある。ただし、ホームページ上には、JPEGという圧縮方式で300KB程度にさらに圧縮した画像を載せてある。 画質はやや落ちるが、これは撮影時の画像と同じ画素サイズ(600万)である。このほかにホームページ上で 見やすいように解像度を落として大きさを調整した画像が数種用意してある。目的の画像にアクセスする方法は、 学名による分類一覧(目→科→属)から順に検索する方法と各種の索引(和名・学名・英名・標本番号)から 直接検索する方法の2通りを用意した。また、ホームページ上にある全ての標本画像はFTPによりまとめて ダウンロードすることも可能にしてある。これらの画像に加えて、撮影を行った全ての標本は、最大長や最大幅などの 4項目について、ノギスによる実測値を公開している。このほかに、標本の年齢や性別に関する情報も確実なもの については、載せてある。


4. 今後の展開

 今後の運用の詳細はまだ言えないが、まずは哺乳類骨格の種類を増やしていくことになるだろう。特に霊長類については 力を入れていきたいと思っている。骨に対応する動物の生体(生態)写真をデータとして加えてほしいという要望もある が、これも実現したい課題の一つである。本データベースの画像の利用は、商用目的でない限り、特に制限は設けない。い ずれにせよ積極的に利用したり、リンクを張ったりする際には、その旨ご連絡を頂けると利用状況が把握できるのでありが たい。こちらから最新の情報 [バグフィックスなど] の提供も可能になると思う。この画像データベースをさらに充実したも のにするために、皆様の忌憚のないご意見・ご批判を心からお待ちしている。

 この計画の実施に当たっては、本当に多くの方々の協力をいただいた。解剖学教室の史常徳助手、阿部修二技術員、櫻井 秀雄技術員には撮影装置のセッティングや撮影画像のチェックなどをお願いした。1000 個体以上にも及ぶ標本の撮影や計測 は、獨協医科大学および宇都宮大学の学生諸君に担当してもらった。一方、この画像データベースの基礎になった哺乳類頭 蓋骨を提供して下さった多くの関係者の方々の協力はいうに及ばない。この場を借りてこれらの方々に心から感謝する次第 である。最後に、技術的ならびに資金的な援助を頂いた今井弘民先生をはじめとする総合研究大学院大学・生物形態資料画 像データベースプロジェクトの関係者の皆様、そして終始我々の研究にご理解をいただいている獨協医科大学解剖学教室芹 澤雅夫教授に感謝する。


5. 骨画像の検索方法

 利用可能な検索メニュー(ホームページの表紙)
     1.分類表からの検索
     2.インデックスによる検索
       a. 和名 / b. 英名 / c. 学名 / d. 標本番号

各種の検索メニュー



分類表からの検索



インデックスによる検索(和名)



インデックスによる検索(英名)



検索結果の表示例(1)



検索結果の表示例(2)



データベースの諸元

○使用標本

  獨協医科大学解剖学教室所蔵の哺乳類頭蓋(下顎骨・舌骨はのぞく)

  総数 1,292
  目    14
  科    51
  属   108
  種   161

○写真データ

  6方向(左右前後上下)から撮影した頭蓋の写真
  画像総数 = 6 方向 × 1292 個体 = 7752 枚

○標本情報

  標本番号
  種(学名・和名)
  属(学名・和名)
  科(学名・和名)
  目(学名・和名)
  性別
  年齢
  性別や年齢が "_" になっているものは、標本台帳に記載がないことを示しています (不明であると分かっているものは"不明"になっています)。

○分類・命名

  分類・学名・英名は、基本的に Corbet, G. B., and J. E. Hill. 1991. A world list of mammalian species. Thirded. British Museum (Natural History) Publications, London に従った.
  和名および日本産の哺乳類の分類については、今泉吉典(監修) (1988) 世界哺乳類和名辞典. 平凡社に従った.
  家畜種は原種に含めず、独立した種として扱った.

○計測値

  画像計測での正確さのチェックのため、ノギスによる標本の計測を行いました。収録項目は
以下の4項目です。
  1. 最大長(プロスティオンからもっとも遠い後頭部の点までの距離)
  2. 頬骨弓幅
  3. 後頭骨最大幅(頬骨弓の部分をのぞいた側頭部から後頭部での最大幅)
  4. ナジオン-バジオン
   欠損値は "欠損値" と記入されています。また、各計測項目に注がついていますが、これは定義通りの計測ができなかった項目で、代わりに用いた計測法を示しています。

○公開方法

  インターネット(WWW, ftp)
   http://1kai.dokkyomed.ac.jp/mammal/index.html
  CD-ROM または CD-R ディスクでの配布

○質問などの連絡先

  獨協医科大学解剖学(マクロ)教室 高橋秀雄 または 山下真幸

  電子メール:feedback-1kai@dokkyomed.ac.jp
  郵便:〒321-0293 栃木県下都賀郡壬生町北小林 880
  ファックス:0282-86-6229
  ※連絡はできれば電子メールでお願いいたします.

○利用条件

  営利を伴う出版物ないし活動に使用する際には、必ず事前に連絡して担当者の許可を得ること.
  上記以外の使用について許可は不要であり、基本的に無制限とする(以下に記す条件も希望であり必須とはしない).
  論文、学会発表などで画像を使用した場合、当データベースの画像であることに言及すること.
  公共の出版物などに画像を掲載する場合は、事前に連絡すること。