4. 牧野標本館におけるデータベース構築
牧野標本館では、総合研究大学院大学画像データベースプロジェクトの協力を受けて、当館に所蔵されている植物標本を
データベース化しネットワークで公開する活動を行ってきた。1999年6月から公開している「牧野標本館所蔵タイプ標本デー
タベース」(http://wwwmakino.shizen.metro-u.ac.jp/database.htm)は、当館所蔵のタイプ標本約740点の文字情報(学名、和
名、科名、採集地、採集年月日、採集者、原記載など)と標本画像(標本全体とラベル部分の拡大画像)をデータベース化
したものである。さらに、牧野標本館に所蔵されているすべての標本をデータベース化する作業も進行中である。
以下に牧野標本館所蔵タイプ標本データベースについて、構築の手順と利用方法などについて説明する。
(1)文字情報データベースファイル作成
ラベルに書き込まれた情報は、標本の学術的価値を決定するものである。始めにも述べたように、ラベル情報で最も重要
なのは採集地、採集年月日、採集者であり、標本データベースとしては最低限これらの情報が含まれていなければならな
い。しかもタイプ標本の場合は、それに付随した情報が加わってくるため、情報量が多くなる。しかしデータ入力は手入力
のため、入力項目や情報量は少ない方が早く作業を進めることができる。以上のことを考慮した上で、以下の項目をファイ
ルメーカーPro(FileMaker社)を用いて入力した。
1.標本番号:牧野標本館の連続番号。同時に同じ個体から採集された重複標本には同一番号が付けられている。標本は
あくまでも個体性が重視されている。
2.学名:タイプに付けられた学名。属名、種以下(種、亜種、変種、品種)の形容語、命名者名を入力。
3.和名:和名が付けられているものに限られる。和名がわからないものや海外の種は入力されていない。
4.科学名および科和名:現在最も一般に採用されている科名を入力。
5.現行学名および現行和名:当該タイプ標本の学名が現在では採用されなくなっている場合、一般に採用されている学
名とその和名を入力。
6.採集地名:古い標本ではラベルに書かれている地名が現在の地名と異なることが多い。そこでラベルに書かれている
地名と現行の地名をそれぞれ日本語とアルファベット(英語)表記で入力した。
7.採集者:日本人の場合は日本語とアルファベット表記の両方を入力。
8.採集年月日:西暦で入力。
9.採集者番号:採集者が付けた標本番号がラベルに記入されていたものについて入力。
10.重複標本の所在:他のハーバリウムに重複標本が存在することがわかっている場合には、その国際記号を入力。
11.タイプの種類:Holotype、Isotype、Syntype、Lectotype、Paratypeなど。
12.原記載(文献情報):記載文献とその発行年を入力。
以上の項目のうち、もっとも入力が大変だったのは採集地名であり、古い地名で記入されている場合は、現行地名や地名
の読みを調べるのにかなりの時間を要した。また、タイプとされている標本の中には、正式に発表されていないものが含ま
れている可能性がある。しかしすべての標本について記載文献の内容をチェックすることは非常に困難であることから、タ
イプ標本としてのstatusが曖昧なものもデータベースに加えて公開し、利用者からの情報提供を求めることにした。つまり情
報発信する側と利用する側の相互協力によって、より完成度の高いデータベース構築を目指している。
(2)標本画像撮影
2灯フラットヘッドランプを光源として、民生用デジタルカメラ(ニコン製COOLPIX950)で標本全体の画像およびラベル
部分の拡大画像をそれぞれフルサイズ(1,200 x 1,600pixel)で撮影した。ただし、このライティング方法だと見苦しい影が出
てしまったので、光源を4灯にするのが望ましい。
民生用デジタルカメラも性能や画質はかなり向上してきたが、スライド写真からフォトCD(コダック)に取り込んだ画像
と比較してみると、現時点では後者の方が画質は良いと思われる。画像枚数が多い場合はフォトCDのコストがかかりすぎる
が、最近は一眼レフタイプの業務用デジタルカメラが普及してきたので、そちらにも期待したい。枯れ草とはいえ、良い標
本画像ほど多くの情報を引き出すことができるはずである。
(3)標本画像処理・保存
コンピュータに画像を取り込み、Photoshop(Adobe Systems社)で画像の切り取りや色調補正を行い、画像検索用のサムネ
イル画像(117 x 164pixel)とモニタ・プリント出力用の標準画像(1000 x 1400pixel)の2種類の画像サイズに縮小してJPEG形
式で保存した。
(4)画像データファイル作成
標本番号、写真番号を入力し、標本画像(サムネイル画像、標準画像)を画像データファイルに取り込んだ。データベー
スファイルと画像データファイルの間でリレーションを定義することにより、データベースファイルに標本画像を表示する
ことが可能となる。
(5)Webサイトの作成
ホームページPro(FileMaker社)による、データベースファイルと連動したWebサイトを作成(詳細はソフトウエアのマニ
ュアルを参照)。また、海外からの利用者のために、英語版のページも作成した。検索項目は、標本番号、科学名、属名、
種名(種形容語)、科和名、和名、採集地(和・英)、採集者(和・英)を設定し、科和名の50音順または科学名のアルフ
ァベット順で標本リストを一覧表示する機能も加えた。
(6)サーバを立ち上げて、Web版データベースをインターネットで公開