海棲哺乳類は海の生活に再適応した哺乳類で、クジラ・イルカの仲間(鯨目)、アザラシ・
アシカの仲間(鰭脚目)、ラッコ(食肉目)、ジュゴン・マナティの仲間(海牛目)等からなるが、
場合によってはホッキョクグマやウミカワウソなども含む場合がある。海中生活への適応(呼吸・
エコロケーションなど)の結果、陸棲哺乳類と大きく異なるように見えるが、本質的には
哺乳類の特徴をそなえる。形態学的には、かれらがどこまで哺乳類の一般性をもち、
どこからどのように特殊であるのかを明らかにすることができれば興味深い。
さて、これらの海棲哺乳類は地球上に約120種あまりが棲息しているが、日本近海からは
約50種程度が知られている。日本をとりまく海に棲息する彼らについて少しでも理解を深める
ために、調査研究を進めていかねばならないが、かれらの分布、回遊などのきわめて基礎的
な情報を含めて、これまでの知見は非常に限られている。かれらについての情報を少しでも
収集するためには、海上での目視調査などさまざまな調査法があるが、捕殺して生物学的
な調査を行うことは様々な条件からしてきわめて困難である。
一方で、これら海の哺乳類たちは生死を問わず海岸にあがってくることが少なくない。
このようなできごとを海棲哺乳類のストランディングと総称するが、最近ではストランディングに
関する情報収集が次第に充実し、年間200件近いストランディングが報告されるようになった。
ストランディング個体が生きている場合には、水族館や獣医師をはじめとする救助活動を
組織しなければならない。死亡個体については、博物館などの研究機関における標本収集の
努力も捕殺個体よりもストランディング個体に向けられるようになり、ストランディング個体に
ついてのデータベースの必要性が高まっている。
国立科学博物館では、各地の大学や博物館などの研究機関、日本鯨類研究所、日本
動物園水族館協会、日本海セトロジー研究会をはじめ関連の団体の助力を得て、海棲哺乳類
のストランディングと、博物館などに収蔵されている海棲哺乳類標本、あるいはこれらに関する
文献などのデータベースを有機的に関連させたデータベースの構築を目指している。
海棲哺乳類データベースは以下のサブ・データベースからなる
●ストランディング・イベント・データベース
ストランディングのできごとに関するデータベース(複数個体が関与していることがある)
●ストランディング・個体データベース
個々のできごとに関与した個体のデータベース(特に複数個体が関与している場合それぞれの
個体に関する生物学的情報あるいは標本の帰趨などを記載)
●ストランディング・文献データベース
●標本データベース
国立科学博物館が所蔵している標本に関するデータベース(将来的には各地の博物館や大学、
あるいは水族館などに収蔵されていて公開しても支障のないものをも含めたデータベース作成を
目指したい)
●同定支援ページ
1.マトリックス検索ページ
webページ上で個体に関する観察項目を質問に答えながら入力してもらったデータマトリックスを
マトリックス検索して、該当する可能性の高い種を絞り込む
2.図鑑ページ
海棲哺乳類の図鑑を作成し、簡単な記述を加えてマトリックス検索で絞り込んだ種について検討
し同定の支援資料とする。
3.情報ページ
海棲哺乳類ストランディングの際に必要な各機関などの連絡先リストや、Dos and Do notsを
紹介。
これらのサブデータベースを有機的にリンクし、海棲哺乳類のストランディングの際に多くの一般の
人々がデータ収集などに貢献できるようなデータベースを構築する。
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