牧野標本館所蔵タイプ標本画像データベース

森加藤英寿(東京都立大学牧野標本館)
木原 章(法政大学)


 種子植物とシダ植物の標本は、一般に「さく葉標本(押し葉標本)」の形式がとられている。さく葉標本 は、採集地・採集年月日・採集者などの情報が記入されたラベルがともに台紙にマウントされており、世界 各地の標本館(または標本庫;herbarium)でその収集と維持管理が行われている。標本館に所蔵されてい る標本は、生物学にとって最も重要かつ基本的な情報源であり、命名や研究の証拠資料として、また分類学 ・生態学などの研究資料として利用され続けている。しかし標本館は通常は一般に公開されていないため、 これらの標本が植物学関係の研究者以外の人々の目に触れる機会はほとんど無い。また、植物標本は世界中 の標本館に分散していて参照するのが容易ではなく、どこにどのような標本があるのかさえ知ることが難し い。そのため近年、世界各地の標本館において標本の持つ情報をデータベース化し、インターネットを介し て情報発信する動きが急速に広がっている。

 牧野標本館は、日本の植物分類学の基礎を築いた故牧野富太郎博士の没後に遺族から寄贈された標本をも とに、1958年に設立された。この中には同博士が新種として発表した植物のタイプ標本の一部が含まれ、 今では見ることのできない明治時代の日本各地の植物標本などが数多く含まれているという点で、極めて貴 重な標本である。現時点で、維管束植物標本など約30万点を所蔵している。

 牧野標本館では、総合研究大学院大学画像データベースプロジェクトの協力を受けて、当館に所蔵されて いる植物標本のデータベース化を進め、「牧野標本館所蔵タイプ標本データベース」 (http://wwwmakino.shizen.metro-u.ac.jp/database.htm)を公開している。これは牧野標本館に 所蔵されているタイプ標本のカタログであり、植物の検索・同定を目的とした図鑑類とは異なるものである。 現時点で、当館所蔵タイプ標本約740点の文字情報(学名、和名、科名、採集地、採集年月日、採集者、 原記載など)と標本画像(標本全体とラベル部分の拡大画像)が公開されている。また、より広範な利用の ために、CD-ROM版を作成した。これを機会に、学術標本のもつ価値を、より多くの人々に知っていただけれ ば幸いである。

 詳細は,データベース展示・実演コーナーの「牧野標本館所蔵タイプ標本画像データベース」 (http://nighimai.lab.nig.ac.jp/ujsnh/sympo/kato/kato200010s.html)をご覧ください。