5.画像データベースの作成手順(図2)
ビジョンを持つ:データベース作成にあたって重要なことは,まずどんなデータベースにしたいかビジョ ンを
持つことである。願わくば専門家の使用に堪える高度な学術内容を保ちつつ,小学生も使える汎用性の あるデータ
ベースをイメージしてほしい。また日本語と同時に英語版も作成して,世界の人々が利用できる データベースに
してほしい。画像は前に述べたように素人にも専門家にも無条件で理解できる特徴がある。 画像を媒介して検索
インデックスを各種用意することにより,学術的な質を落とすことなく小学生から専門 家まで利用できるデータ
ベースを作ることが可能になるのである。
素データの準備:ビジョンが決まったら,素データを用意する。素データには,分類学的テキスト情報と
標本 画像情報が必要である(アリの場合を
図3に
示した)。素データはすべてディジタル化する必要がある。文 字情報は ファイルメーカーなどのソフトで入力し,
画像はPhotoCDやCCDカメラとして取り込む。素データの 用意とディジ タル化は手作業なので,データベース
作成の最大の山場である。入力書式をシステム担当者に 作成してもらい, 入力は分類や画像担当者自身
が行うのが望ましい。アリ類データベースの場合,1995年初 版のシステムはわずか 一ヶ月で主要骨格が
構築されたが,その背景には約10年におよぶ素データの蓄積とデ ィジタル化の準備があった。
また1998年の英訳改訂版は,英訳作業に丸二年を要した。
システム構築:素データが揃ったら,システム構築作業に入る。非常に高度なパソコン操作を要求される
ので,それを得意とするグループとの共同作業になる。業者に委託するケースも多く見られる。いずれにし
ても,システム構築の鍵はどのような検索インデックスを用意するかにかかっている。システム担当者は分
類を全く知らないことが多いので,分類担当者に明確なビジョンがないと,単純なキイワード検索方式のよ
うな使い勝手の悪いデータベースができてしまう。
検索インデックス作成:アリ類検索インデックスの例を
図4
に示した。例えば種名一覧の場合は,和名順と 学名順を用意して,クリックすると和名ならば50音順また
学名はabc順に種のリストが検索インデックス画面 の右側に表示されるようになっている。この方式は,
アリの知識のないユーザーにもインデックス中身を閲 覧できる利点がある。該当する和名や学名をクリック
すると,データベースの本体である 「電子アリ図鑑 」に 飛ぶよう設定してある。電子アリ図鑑は,科 ・亜科 ・属の
分類階層表示付きの種名(和名・学名),見出しカラー 画像,シノニム,種の解説,分布,文献が種ごとに
セットになっている。画像 ・分布 ・文献はクリックすると さらに拡大画像や詳細記述が現れるようにしてある。
この他見出し画像だけを集めたイメージ検索や地域別 のアリ類を優勢種順に画像で表示する地域別
検索,あるいは画像付きの二分岐検索など,画像を中心にした 各種検索インデックスも用意してある。
このように画像検索を用いると,小学生でもデータベースの中身を 見ることができる。
Webページ作成:システム担当の腕の見せ所であるが,二つの点に留意する必要がある。一つは,操作性
を重視してシンプルな画面構成にすること。背景に色をつけたり飾り立てたりしたカラフルな画面は,見た目
には美しくても動作時間を遅くし操作性能が悪くなる。もう一点は,素データ改編を分類や画像担当者自身
で行えるよう,システムを組むこと。そのための操作マニュアルを作成することが望ましい。こうすれば,
システム構築者の負担が軽減され,分類や画像担当者が自分達の手でデータベースを改訂してゆくことがで
きるようになる。
CD-ROM版作成:CD-ROMは,インターネットが利用できない野外での利用,教育実習で大勢のユーザーが
同時に利用する場合,あるいは頻繁に長時間利用する時などに,素早いアクセスを可能にしインターネット
利用経費の軽減にもなる。つまりデータベースを効率良く利用するためには,インターネットとCD-ROMは不
可分である。
もしお金の工面ができるならば,データベースを印刷本として残すことを進めたい。と言うのは,筆者も
含めて長年印刷本に慣れ親しんだアナログ人間には,CD-ROMの薄っぺらな円盤よりも手に取ってページをめ
くるずっしりとした感触が忘れ難いからである。しかし一方では,CD-ROMを入れたラップトップを傍らに,
顕微鏡を見ながら野外研究する進歩的なディジタル人間も現れている。これこそ21世紀の分類研究のあるべ
き姿ではなかろうか。しかしアナログ人間とディジタル人間が混在する現在において,今しばらく印刷本・
インターネット・CD-ROMを共存させることがおそらく最善の策であろう。