はじめに

森脇和郎(総合研究大学院大学,自然史学会連合代表)

 平成12年度から自然史学会連合の代表に選出されたが、この学会連合の活動を高める方策をいろいろと 模索した挙句、本来基礎的な学問領域であるこの自然史科学に関する一般の認識を高め、また本連合に参加 する各学会相互の結びつきを強めるために、生物の画像データベースを充実し研究者の利便に供するととも に、年齢を問わず世間一般のなるべく多くの人に見てもらえるようにすることが有効であると考えた。近 年、地球環境の保全という観点から生物多様性に対する社会の関心が高まるとともに、生物の系統・分類の 重要性に対する社会の認識もいささか大きくなってきた。この趨勢に対応する役割を担う全国各地の博物館 学芸員の方々を結ぶ手段としても生物標本画像データベースは役立つと思われる。

 今回のシンポジウムは生物標本の画像データを主要課題としているかに見えるが、本質的な中核は生き物 にあることを強調しておきたい。生物分類学が生物学として長い歴史を持つことから分かるように、多様な 生き物に名前をつけ、それら相互の類縁関係を明らかにしたいというのは、人類の古くからの知的欲求であ った。この流れの中でも、生き物を画像として記載することは大切な手法であった。しかし、洋の東西を問 わず数多くの生き物の図鑑が作られてきたが、きれいな図があれば生き物の実物はいらない等と云う人はい ないのと同じように、コンピューター画像があれば生き物はいらないということは決してない。本質的な中 心は生き物にある。このことは、現在公表されている種々の生物画像データベースを見ても、素材となって いる生き物に対する深い造詣を基盤とするものでなければ高い価値を持ち得ないことからも明らかである。

 本シンポジウムの主な部分は、日本全国にある14の大学共同利用研究所に設けられた博士課程大学院を 統合する総合研究大学院大学の共同研究として行われたものであるが、これから聞いていただくように大変 大きな成果をあげていただき同大学の関係者としても喜んでいる。